2022.08.19
【糸井丈朗】ドイツだからこそ経験できるトップレベルとの違い【フランクフルト】【ヴォルフスブルク】
目次
日本で無名のサッカー選手がドイツでプロに
-まずは軽く自己紹介をお願いします。
糸井:名前は糸井丈朗です。日本では高校まで埼玉の武南高校というところでサッカーをやってまして、で大学1年生の時に大学を休学して、ドイツに来ました。ドイツ1年目はバサラマインツでお世話になって、2年目は6部のチームで「SCハナウ」っていうチームでやって、3年目で5部のチームへ移籍して、4年目で4部の「SCギーセン」に移籍して、5年目でやっと、今は「カールツァイスイェナ」っていうチームでやっています。
-「イェナ」というチームは4部リーグですが、規模も大きくてプロクラブに含まれると思います。そこに入れた経緯を教えていただけますか?
糸井:前シーズンも同じ4部のリーグでプレーしていたんですけど、その時にインターネットを通じてドイツ人の代理人から連絡をいただいて。そこからは山下さんにも手伝っていただきながら、向こうからこういったチームを紹介できるよって言ってもらったので、練習参加をまずはさせてもらって結局入団という形になりました。
-実際に入団してみて、今まで所属してきたチームとは全く違ったと思うんですけど、プロとアマの違いなどはそこで感じましたか?
糸井:ボールを持つ時間が減ったように感じます。ボールに対してのプレッシャーが速くなったので、ボールを持っている暇がないというか、、、。対人(ツブァイカンプフ)も強くなったので、自由がなくなってきたと思います。あとは、個人の能力が上がっているので簡単にボールも奪えなくなってきて、個人的にその部分でスタミナを奪われているような気がします。
-それは同じ4部リーグに所属していたギーセンとも違いますか?
糸井:そこは正直言うとまだ分かんないんですけど、公式戦も始まってないので。ただ練習の感じだと、やっぱり走れる選手が多いからかギーセンよりは強度は高いかなと思います。
肌で感じたトップレベルのサッカー
-最近行われた試合(DFBポカール1回戦 vs VfL Wolfsburg )について聞いていきたいんですけど、20分という少ない時間でありながらブンデスリーガ1部のチームと試合してみて感じたことなどはありますか?
糸井:会場の雰囲気はすごかったですね。前の試合では6500人くらい入っていたらしくて、観客が。でそのほとんどが自分達のチームのサポーターだったので4部でもこの規模のサポーターが入るのがすごいなとびっくりして。前半とかはベンチに座っていたんですけど、度肝抜かれましたね笑
-ヴォルフスブルグのファンも来てましたか?
糸井:来てましたね、何人くらいいたんだろう、けどイェナのファンが多すぎてなんかちょっと圧倒された感じですね。
-実際に20分間プレーしてみて差などは感じましたか?
自分のプレーが全くダメだったんですけど、最初のチャンスで「仕掛けてやろう」と思ってたんでドリブルで仕掛けたんですけど、すぐに取られてしまって。2回目もチャレンジしようかなと思ってたんですけど、パスミスして、そこからどんどん落ちていってしまいましたね。
チームとしては、僕たちは引いて守ってカウンター狙いみたいな感じだったんですけど、ちょっとでも油断したり隙を見せたりするとすぐに縦パスを入れてくるので、全く油断できないなと思って外からは見てました。やっぱりボールを持たれてる時間が長かったので。
-個々の部分で差は感じたりしましたか?
糸井:僕は感じましたね。特に感じたのは攻守の切替の部分ですかね。僕はファーストタッチと2回目ですぐにボールを取られたんですけど、そこからの切り替えが速かったですね。ボールを奪い返せる気がしないというか、切り替えも組織だって行われていたので。最終的にはファールで終わることになったんですけど、どちらかというと「ファールでしか止められなかったのか、、、。」と感じていたので、少し落ち込みましたね。
そこの部分でボールが奪えなかったのは「切り替え」の部分が大きかったんですか?それとも他の要因もありましたか?
糸井:単純にうまいし速いっていうのはあったと思います。あとは判断なんかもすごく速かったですね。
-その感じた差というのは「もう追いつけない」と思うほどでしたか?実際にトップレベルの選手と対戦してみてリアルな距離というのが少し見えたと思うのですが、、、。
糸井: んーーー、どうなんですかね。僕が個人的にあの試合は入り方も良くなくて落ち込んでいたので、はっきりとはわからないですけど、去年、ギーセンでプレーしている時にフランクフルトと試合する機会があって、練習試合だったんですけど、その時には縦へのスピードは通用するのかなと思いました。相手のプレッシャーも速くて、でもその中でも最後のシュートがうまくいかなかったですけど、それでもシュートまでいけるんだと思いましたね。ヴォルフスブルク戦でももう少しチャンスメイクしたかったですけど、そこで1本でも作れていたらまた自信にはつながったのかと思います。
-縦へのスピードは通用するなと感じたということですね?
糸井:そうですね。ヴォルフスブルク戦でも僕たちのチームのサイドの選手も速いんですけど、カウンターで2、3回はチャンスを作っていたので、「いけるんだそこで」とは思いましたね。
-逆にここをもっとやらないといけないなと思った部分はありますか?
糸井:とりあえずその自分の長所が通用するんだったらそこをもっと伸ばさないといけないなと思いましたね。僕は「縦に速い」っていったんですけど、それを一回出すのに体力消費が半端ないので、そのあと守備をするのがしんどくなるくらい消費してしまうので、一回でチャンスメイクできる技術とその精度を上げないといけないなと思いました。
-じゃあそこで技術や判断といった足りない部分に目を向けたのではなく、自分の長所をもっと活かすことが出来れば上にいけるチャンスがあると思ったんですね。
糸井:短所というか、まだまだ足りない部分ばっかりなんですけど、とりあえずは長所の部分を伸ばさないといけないのかなと思います。まずは。
実際に感じたプロとアマの違い
-多くの日本人選手が5部に在籍していて、4部リーグを1つのプロの指標にしていると思うのですが、実際に何が大きく違うと思いますか?
糸井:5部と4部の上位チームの差って単純にボールを持てる選手が多くなって、やっぱ守備に時間かけなくちゃいけなくなるのはありますね。フランクフルトとやった時には、ロングボールに対して僕がプレッシャーをかけたんですけど、これが5部の場合は外に出すとか、前に蹴るとか、中途半端なボールはテキトーにクリアされることが多かったんですけど、フランクフルトの選手とかは簡単に横につけて、危ないボールなんかも安全にボールポゼッションにつなげていたので、そこでそれができるんだというか、完全に精度が違うなと思いました。僕がセンターバックだったらできないなと思うことを普通にやってくるので、びっくりしましたね。5部、4部じゃありえないなと思うことを普通に、正確に対応してくるなと思いますね。
-フィジカル面というよりは技術面での違いの方が感じたということですね。
糸井:そうですね、技術とか判断とかですね。あとはサッカーの考え方とかですかね。
-考え方というのは?
糸井:考え方というか、フランクフルトだったら相手選手に鎌田選手とかいたんですけど、明らかにポジショニングがいいし、ゴールまでいっちゃうんですよ、ターンしてから。その時鎌田選手はサイドハーフだったんですけど、やっぱりディフェンダーとサイドバックとサイドハーフの間とかに立ってるんですよ。そこから数少ないタッチ数でゴールまで持っていくとか。あとは組織的にみんなが動いて、3人目とか。それでスコスコいかれたイメージがあったんで。
-皆がサッカーをわかっていてプレーしているというのをレベルが上がっていくにつれて感じるということですね。
糸井:そうですね。あとはパス1本とっても1秒2秒くらい速いイメージがありますね。大袈裟かもしれないですけど、トラップしてから次のプレーに移るまでがものすごく速いですね。
-テレビで見ていてパススピードが速いとか、パスまでが速いなんていうのはよく聞きますけど、それを肌で感じたということですもんね。
糸井:感じますね、それで少しでもサボっているとセンターバックが侵入してきてロングボールで散らされるので、無駄に走らされてたなと、結構しんどかったですね。
サッカー選手としてステップアップするために大切なこと
-少し話が変わるのですが、1歩1歩着実にステップアップを繰り返してきたと思うんですけど、その時に大切にしていたこととかありますか?
糸井:1試合1試合に対してすごく重く捉えていたかなと思います。例えば5部だったら2年間プレーしたんですけど、1試合で1得点か1アシストくらいはしないと、アマチュアではそんなに長くサッカーは続けられないと思っていたので。成功しないとサッカーをやめないといけないと思いながら大切に1試合1試合を戦っていた気がしますね。大好きなサッカーを続けたかったので、1年に対する覚悟というか、それはギーセン、4部にいってもそうなんですけど、やっぱり限られた試合の中で結果を出さないと上にはいけないので、そこは内容が悪くてもゴールに向かうようにしていたし、そういう思いでプレーしていました。
練習とかでも僕はみんなから言われるキャラなんですけど、言われたとしても点を取り続けるとか、チャレンジし続けるとか失うものはない精神でやっていました。
-それが大事だったのかなって今振り返ったら思うってことですね?
糸井:気持ちでプレーしていたなとは今となって思いますね。巧さとかではなくて。
-他に何かありますか?
糸井:コミュニケーションも大事だと思いますね。僕もあんまりドイツ語上手くないんですけど、身振り手振りででもチームメートに「こうしたかったんだ」って説明すると、怒るだけではなくて「そう思ってたんだ」って感じ取ってくれたりとか、「ここで出してくれよ」っていうとパスが来るようになったりとか、次からは。そういうのは大事だったのかなと思いますね。伝わんなくてもいいから、意思表示とかが大事なのかなと思いますね。
-今周りの多くがプロ選手で2部3部から落ちてきた選手もいると思うんですけど、そこでプロフェッショナルな部分を私生活含めて感じたりしますか?
糸井:やっぱり皆サプリメントとか取ったりしていて、身体に気をつかっているんだなと思いましたね。皆練習前には体幹やったりブラックロールしたりして怪我予防もしているし、後は2部連の昼休憩とか足上げて寝たりしているんですよ、後はアイスバスに入ったりとか、やっぱり身体のケアをみんなしているなと思いますね。イェナのめちゃくちゃいい選手でサイドの11番の選手とかも練習終わってから、ストレッチとか入れて1時間くらいケアしていると思います。多分日にはよると思うんですけど、それくらいはやっていましたね。
-僕はプロの世界に入ったことがないんですけど、ドイツ人のアマチュア選手って全く身体のケアをしないと思うんですけど、そこはやっぱり違うんですね。
糸井:そうですかね笑 けどこんなにやるんだってびっくりしましたね笑
-練習前とかも結構早く来てるんですか?
糸井: 練習前とかは基本的には1時間前集合で、そこからみんな各自で動き出すみたいな。でも、ほぼみんなやってるのかな、そういう感じは。
-チームとして1時間前集合ということですか?それともみんながそれぞれ1時間前に集合しているということですか?
糸井:チームとして1時間前に集合しなくちゃいけなくて、30分前からはケータイもいじるのは禁止になります。例えば10時から練習だと9時にはもうみんな集合していて、早い人だともっと早く来てると思います。筋トレやっている人とかもいるし。
-ドイツに来る日本人選手の多くはプロサッカー選手(ブンデスリーガ)を目指してやってくると思うんですけど、そこで大切にした方がいいこととかありますか?
糸井:僕は1年目にバサラでお世話になったんですけど、やっぱり継続性とは大事かなと思います。続けるっていうことですね。例えばバサラ所属時に言われたことなんですけど、「練習のための練習(準備)をしろ」とか、練習の前に早く来て、体幹トレーニングなどで刺激入れてから練習に入ったりとか、パス練習とかトラップ練習とかしてから練習に入ったりだとか、そういう小さな積み重ねが自分の自信になっていったと思うので、そしてそれを次のチーム、また次のチームに入ってからも続けることができたのでそれが大事だったのかなと思います。
僕は足の速さが武器だと思っているんですけど、1年目にバサラで行った走りのトレーニング合宿みたいなのがあって、その時にトレーニングしていた内容なんかも、継続的に続けていました。それが活きたのか、明らかにバサラにいた時よりも足は速くなっていると思います。
-実際に今のチームでは何番目位に速いんですか?
糸井: 実は僕怪我でシーズン初めのスピードテストを行なっていなくて、、、。
でも体感レベルでならチームでも上位には入っていると思います。1位か2位か、僕初速は速くないんですけど、20メートル、30メートルくらいなら、1位、2位の自信はありますね。
-すごいですね。走りのドリルなども合計で2、3年していたんですよね?
糸井:そうですね、答えとか分からなかったんですけど、常に直接確認してもらえるわけではなかったので、けど、腕回しとかドリルとかすると単純に動きやすくなるんですよ。縦にも速くなるし、それで継続的にやっていましたね。