2022.06.07
新卒1年目で病院を辞めて飛び込む覚悟はあるか? サッカー大国ドイツでトレーナー挑戦。
今ドイツでトレーナーとして働いている僕は去年の今頃病院でもやもやしながら働いていた。
高校卒業後、世界で活躍するトレーナーになりたいと思い理学療法士になるために大学に入学した。
理学療法士の資格取得後、僕は、経験を積むために京都の病院で働いていた。病院での1年間は新しいことだらけであり、患者さんと充実した時間を過ごせていると思っていた。
理学療法士2年目、生活が落ち着いていつもの日常を過ごしていると何か胸にモヤモヤを感じた。
このモヤモヤの正体は、口では夢を叶えると言いながら安定した人生を歩んでいる自分への苛立ちと不安だった。
この生活の先に自分が思い描く未来がないことに気づいてしまった。
サッカーのトレーナーとして選手を支える姿。グランドで試合に勝った時に監督もコーチも選手も一緒に喜ぶ姿。怪我をした選手と話し合いながらリハビリをする姿。
夢のために海外に行くべきかと周りの人に相談すると、「もう少し経験積んでからの方がいいんじゃない?」「具体的なプランはあるの?」と言われることが多かった。
お金が溜まったらいこう。語学力が十分になったらいこう。治療技術が十分になったらいこう。経験をある程度積んでからいこう。そんな最もらしい理由がたくさん頭の中に浮かんでくる。
でも、それはいつになったら十分になるのか。いつになったら自信がつくか。
他人にアドバイスを求めながらも、既にこの時点で今すぐ海外に行きたいという気持ちは溢れかけていた。どこかに道があるはずだと、日本人のドイツ関係者、サッカー関係者に手当たり次第連絡をした。
その中で声をかけてくれたのが、今僕がトレーナーを務めているバサラマインツの山下監督だった。ドイツのサッカーリーグに日本人監督がいることが衝撃であり、現在6部リーグに属して上を目指しているチーム。今の自分にこれ以上最適な環境はないんじゃないかと思えた。
正直に言ってしまえば、不安しかなかったが、渡航を決めた。まだ全然覚悟なんてなかったし、ドイツ行きの飛行機に乗った時ですら自分の将来に恐怖を感じた。
去年の夏。2021年8月17日チームに合流。
自分が少しずつ変わっていった。
熱い思いを持って日々選手と接している監督や、いつも厳しいけど僕のために的確なアドバイスをくれるコーチ。上を目指して日々トレーニングに励む選手逹。そんな環境でトレーナーとして役割を果たす中で、覚悟は自然と生まれていた。
気づいたら「将来、ドイツでトレーナーになりたいな」ではなく、「ここでトレーナーになるために何をすべきなのか」と考えるようになって日々を過ごしていた。
ここからは、この1年間での具体的な成長とともに僕のチームでの仕事を3つ紹介する。
W-up
練習前と試合前のW-upを担当している。最初はドイツ語が全く分からないのでほとんど喋らずにW-upを行なっていた。トレーナーがほとんど喋らないW-up…想像すると少しシュールで面白いが、これがチームとして大きな問題を作ってしまっていた。W-upの雰囲気は僕の想像以上にその日の練習の雰囲気に繋がっており、W-up時に上手く雰囲気作りを行えない時は練習にまで悪い影響を及ぼしていた。練習後にコーチと「今日のW-upの雰囲気が練習まで結構引っ張ってたね…」と反省会をした日もあった。 そんな経験から、選手のメンタルコントロールはW-upの重要な目的の1つであると実感した。W-upを行っていく中でこちらのテンションの調整や言葉の掛け方で少しづつ選手のメンタル面にスイッチを入れていく。特に早い試合展開を想定した練習メニューを行う日はアジリティを多く入れて声かけも強めに行う。もちろん、ドイツ語単語量や発音はまだまだだが一番大事な部分はそこではない。本当にうまくいかなかった時期は言いたいことを紙に書いてW-up中に読み上げた日もあった。その時は、読み上げた後に拍手をしてくれて嬉しかったのを今でも覚えている。最初は言い間違いで笑われていた時もあったが、今は僕が説明した内容で間違っているとドイツ語で訂正してくれるようにもなった。自分が変化することで周りの態度も変わっていった。
練習後のケア
練習後には怪我をしている選手に加え、痛みのある選手や疲労が溜まっている選手に対してケアを行う。ドイツ渡航直後は何かドイツ語で言われた際に理解できていなくても笑顔で頷くだけだった。選手が「Kannst du fester machen??(もっと強く押してくれる??)」と言っている時もわかっているふりをして施術を続けていたこともあった。やはりこの方法では長くは続かなかったし、次第に予約も少なくなり施術にくるのは日本人ばかりになってしまった。このままではダメだと思い、どれだけ会話が止まってしまっても分からない時は「Wie Bitte??(なんて??)」を乱用し、時間がかかってもGoogle翻訳を使い相手の言おうとしていることを理解しようとした。その結果、施術中のコミュニケーション量も増え、1日に3人はドイツ人が施術を受けに来てくれるようになった。
怪我後のアスリートリハビリ
怪我後、炎症が軽減した選手に対し復帰のためにリハビリを行う。今季、一番多かった怪我はハムストリングスの肉離れだ。「肉離れは痛みがなくなれば治っている」と考える選手が多く、筋の機能が回復していないまま復帰しようとする。その結果、怪我の再発の可能性が高くなってしまう。特にシーズン中は1試合でも多く出て結果を残そうと考えており、モチベーションを維持しながらこちらの作成したメニューを行ってもらうことに苦労した。復帰時は恐怖感を訴える選手も多く監督と相談しながら運動強度を調整してチーム練習へ合流するようにしている。
最初は自信なんて持ってなくて、作った姿を見せていた僕が、今では素の自分で覚悟を持って選手と向き合っている。
そして我々は、来季シーズンを共に戦ってくれるトレーナーインターンを募集している。1年前の自分がそうだったから、迷う気持ちも、怖い気持ちもよくわかる。でもここにはそれら全てを乗り越えて海を渡る価値がある。
これを読んでくれたあなたと同じチームで戦える日が来ることを楽しみにしています。